
フィリピン ネグロス島の製糖工場鉄道
1983年のネグロス島
ネグロス島(Negros Island)は、フィリピン中部のビサヤ諸島に位置する島で、フィリピン全体では4番目に大きな島です。島内は2つの州に分かれており、そのうち西半分を占めるネグロス・オクシデンタル州には製糖業の中心地が多く、州都バコロド市はネグロス島最大の都市です。かつて島の経済は、砂糖農園と製糖工場に支えられていました。しかし、これらの所有者はスペイン系または中国系の大地主で、富は一部に集中しており、労働者は契約や賃金制度が明確でない季節労働者として働かされ、深刻な貧困にあえいでいました。1980年代になると、世界的に砂糖価格が暴落し、1974年に1ポンドあたり66セントだった価格は、1983年にはわずか6セントと90%も下落しました。この価格は生産コストを下回り、多くの工場が操業を停止して閉鎖され、労働者は大量に解雇される事態となりました。しかも、島では砂糖以外の産業が無く、経済は行き詰まりました。この結果、1985年には推定10万人の子どもが栄養失調に陥り、餓死者も続出する深刻な人道危機が発生しました。政府の支援政策は不充分で、共産主義系反政府勢力(新人民軍=NPA)の跳梁跋扈を許す事態となりました。
このような危機が島に差し迫る中、1983年11月各製糖工場は操業をつづけており、撮影者の私もこの事情を全く知らないという申し訳ない情況でした。この後、生き残った工場は鉄道を廃止しトラック輸送に切り替えましたので、鉄道によるほぼ最後のサトウキビ輸送を記録したものとなりました。
2025年現在、製糖工場の鉄道は、わずかに観光向けに保存されていうにすぎません。地主と労働者の関係も改善されていませんし、ゲリラは政府の掃討作戦により山岳部に縮小しましたが、まだ存在しています。砂糖がいまだに島の主要産業ですが、バガス(砂糖の絞りかす)によるバイオマス発電や農業の多様化も模索されおり、非常にポジティブな展望が見込まれています。
ラ・カルロッタ製糖工場 Central Azucarera de La Carlota, Inc.(CACI)



ビクトリアス製糖工場 Victorias Milling Company, Inc.(VMC)


